株式会社ノイズ研究所

技術情報 【雷サージ試験器】IEC規格とJEC規格のちがい

NoiseKen

はじめに

弊社ノイズ研究所の製品で雷サージ試験器というと大きく2種類の規格のモデルを販売しております。

お客さまよりIEC規格とJEC規格のちがいについてお問い合わせをいただく機会があり、過去にはこの内容でセミナーを開催することもありました。
本記事では、その雷サージ試験器におけるIEC規格とJEC規格のちがいについてご紹介させていただきます。

それぞれの試験の概要

IEC 61000-4-5について

株式会社ノイズ研究所 | 【雷サージ試験器】IEC規格とJEC規格のちがい
株式会社ノイズ研究所 | 【雷サージ試験器】IEC規格とJEC規格のちがい

(実際の試験では・・・)

「サージ保護素子がない場合」、「サージ保護素子が機能しない場合」
⇒結果的に電圧サージ試験になります


「絶縁破壊が発生した場合」、「サージ保護素子が機能した場合」
⇒結果的に電流サージ試験になります。

また、参考までにIEC規格の試験レベルの一例は以下の表にまとめてみました。

【試験レベル(共通規格/製品群規格)】

EN61000-6-1 2007
共通イミュニティ
住宅・商業・軽工業環境
EN61000-6-2 2005
共通イミュニティ
工業環境
IEC60601-1-2 2014
医用電気機器
安全一般要求
EMC要求と試験
EN55024
2010
情報技術装置の
イミュニティ規格
EN61326-1
2013
計測、制御および
試験所用の電子機
器 EMC要求
(AC電源線)
線間 1kV
対地間 2kV
(DC電源線)
線間 0.5kV
対地間 0.5kV
(AC電源線)
線間 1kV
対地間 2kV
(DC電源線)
線間 0.5kV
対地間 0.5kV
(信号線)
対地間 1kV
(電源線)
線間 1kV
対地間 2kV
(電源線)
線間 1kV
対地間 2kV
(信号線)
対地間 1kV
[工業環境]
(電源線)
線間 1kV
対地間 2kV
(信号線)
対地間 1kV
IEC 61000-4-5
最新版
IEC 61000-4-5
最新版
IEC 61000-4-5
最新版
IEC61000-4-5
2005年版
IEC61000-4-5
2005年版

JEC規格について

株式会社ノイズ研究所 | 【雷サージ試験器】IEC規格とJEC規格のちがい

実際の試験では、「サージ保護素子がない場合」は電圧サージ試験を実施し、「サージ保護素子がある場合」は電圧サージ試験、電流サージ試験の両方を実施します。

サージ発生回路のちがい

下の図1はIEC規格の雷サージ発生部です。
弊社ではLSS-F03シリーズ(最大出力電圧:15kVタイプ)や、
新発売のLSS-FE01シリーズ(最大出力電圧:6kVタイプ)が該当します。

回路図1

図1 IEC方式コンビネーション波形発生回路

一方下の図は、JEC規格の雷サージ発生部です。
弊社では現行のモデルLSS-720B2が該当します。
( )内の定数は8/20μs波形(電流サージ波形)の定数です。

回路図2

図2 JEC式電圧・電流サージ波形発生回路 ( )内の定数は8/20μs波形の定数です。

波形の比較

[1.2/50μs電圧サージ波形]の比較

下の図3は出力設定電圧(≒C1への充電電圧):Vc=15kV、の場合の電圧サージ波形です。

1.2-50wave

図3 1.2/50μs電圧サージ波形

[8/20μs電流サージ波形]の比較

下の図4は先述の電圧設定をした場合の電流波形の比較です。
実効インピーダンスの計算は(開放時ピーク電圧)/(短絡時ピーク電流)です。
IEC・・・ピーク電流:7500A、インピーダンス:2Ω
JEC・・・ピーク電流:2500A、インピーダンス:6Ω

電流サージ波形比較

図4 短絡時の電流サージ波形

このようにIECの方がインピーダンスが低く、ピーク電流値はJECと比較しても3倍もの差があります。

発生部の蓄積エネルギーとEUTが消費するエネルギーについて

ここからは少しマニアックな内容です。

サージ発生回路では、充電コンデンサにエネルギーを蓄積して放出します。
充電コンデンサ Cに蓄積されるエネルギーWは、充電電圧をV=15kVとすると、次のように求めることができます。

IEC方式:W=1125 [J]
JEC電圧:W=146 [J]
JEC電流:W=315 [J]

このエネルギーがサージの根源であり、サージ発生部における効率もあるため、出力はこれ以上のエネルギーが放出されることはありません。
では、EUTにサージ電流が流れたときに、実際どれくらいのエネルギーがEUT側で消費するのかを考察してみます。
EUTが消費するエネルギーは、EUTのインピーダンスによって変わります。ここでは、EUT側のインピーダンスが絶縁破壊後に2Ωとなった場合について、消費するエネルギーを算出してみます。

IEC方式の発生回路、JEC方式の電圧・電流発生回路のそれぞれについて、負荷抵抗2Ωが接続された場合の電流波形を、図5に示します。(比較のため重ね合わせています。)
充電電圧:V=15kV

IECJEC_energy

図5 2Ω負荷時のサージ波形

負荷2Ωで消費するエネルギーは、次のように求められます。

shiki

I(t):電流波形
R:負荷抵抗

図5の場合においてこれをシミュレータで計算すると、次の結果が得られます。

IEC方式回路・・・492[J]
JEC 1.2/50μs 回路・・・58[J]
JEC 8/20 μs 回路・・・136「J」

結果のように、負荷抵抗のエネルギーが最も大きいのは、IEC方式となります。
ただし、どのような条件でも、常にIEC方式の出力回路がEUTに最大のエネルギーを与え得るか?というとそうではなく、それぞれの回路でエネルギー消費が最大となる負荷があります。

IEC方式の回路では、負荷抵抗が大きいと図1におけるR1(7Ω)の方に電流が支配的に流れるようになり、負荷側で消費するエネルギーも減っていきます。逆にJECの8/20μs回路では負荷抵抗が大きい方が、消費するエネルギーが大きくなります。

(シミュレーションの結果)

しかし、バリスタなどのように、サージを受けたときに抵抗値がダイナミックに変化するような素子の場合は、その消費エネルギーがどの程度かを知るのは困難になります。

まとめ

いかがでしたでしょうか?以上の結果をまとめると、次のようになります。

関連情報・コラムへ戻る

関連記事

close
close

News

  1. 2025年11月17日 お知らせ

    PIERS(Photonics and Electromagnetics Research Symposium)に投稿・発表、およびスポンサーとして参画しました

  2. 2025年10月27日 カスタマーサービス センター

    修理・校正のお見積り依頼方法に関してのご案内

  3. 2025年9月25日 イベント情報

    第8回名古屋ネプコンジャパン エレクトロニクス開発・実装展に出展します

  4. 2025年9月24日 お知らせ

    NoiseKen 50th Anniversary 『50年後のEMCを創造する』ウェブサイト公開のご案内

view all

Contactお問い合わせ