技術情報 【雷サージ試験器】IEC規格とJEC規格のちがい
NoiseKenはじめに
弊社ノイズ研究所の製品で雷サージ試験器というと大きく2種類の規格のモデルを販売しております。
- 国際規格であるIEC 61000-4-5に準拠したLSS-F03シリーズやLSS-FE01シリーズ
- 電気規格調査会(JEC: Japanese Electrotechnical Committee) が制定するJEC規格のLSS-700シリーズ
お客さまよりIEC規格とJEC規格のちがいについてお問い合わせをいただく機会があり、過去にはこの内容でセミナーを開催することもありました。
本記事では、その雷サージ試験器におけるIEC規格とJEC規格のちがいについてご紹介させていただきます。
それぞれの試験の概要
IEC 61000-4-5について


- スイッチングおよび雷の過度現象からの過電圧によって発生するサージを模擬し、電子機器の耐性を評価します。(直撃雷ではなく誘導雷を想定)
- サージ発生部はコンビネーション回路を規定しており、コンビネーション波形(1.2/50μs・8/20μs)による試験します。
- サージはEUTの電源線および信号線に対して印加します。
- 規格の最新版はIEC61000-4-5 第3版(2014年発行)※2025年11月現在
(実際の試験では・・・)
「サージ保護素子がない場合」、「サージ保護素子が機能しない場合」
⇒結果的に電圧サージ試験になります。
「絶縁破壊が発生した場合」、「サージ保護素子が機能した場合」
⇒結果的に電流サージ試験になります。
また、参考までにIEC規格の試験レベルの一例は以下の表にまとめてみました。
【試験レベル(共通規格/製品群規格)】
| EN61000-6-1 2007 共通イミュニティ 住宅・商業・軽工業環境 | EN61000-6-2 2005 共通イミュニティ 工業環境 | IEC60601-1-2 2014 医用電気機器 安全一般要求 EMC要求と試験 | EN55024 2010 情報技術装置の イミュニティ規格 | EN61326-1 2013 計測、制御および 試験所用の電子機 器 EMC要求 |
| (AC電源線) 線間 1kV 対地間 2kV (DC電源線) 線間 0.5kV 対地間 0.5kV | (AC電源線) 線間 1kV 対地間 2kV (DC電源線) 線間 0.5kV 対地間 0.5kV (信号線) 対地間 1kV | (電源線) 線間 1kV 対地間 2kV | (電源線) 線間 1kV 対地間 2kV (信号線) 対地間 1kV | [工業環境] (電源線) 線間 1kV 対地間 2kV (信号線) 対地間 1kV |
| IEC 61000-4-5 最新版 | IEC 61000-4-5 最新版 | IEC 61000-4-5 最新版 | IEC61000-4-5 2005年版 | IEC61000-4-5 2005年版 |
JEC規格について

- 電源系統に接続される機器の絶縁耐力試験を規定し、電気事業用施設の保護を目的として、定められている。
- EUTの仕様により、電圧サージ波形(1.2/50μs)および電流サージ波形(8/20μs)を選択して試験(規格で個別に定義されている)
- 発生部(雷インパルス発生回路及び出力インピーダンス)に関して一義的に決められているものではない。
- EUTの絶縁破壊および破損を評価
- 規格はJEC210/212など
実際の試験では、「サージ保護素子がない場合」は電圧サージ試験を実施し、「サージ保護素子がある場合」は電圧サージ試験、電流サージ試験の両方を実施します。
サージ発生回路のちがい
下の図1はIEC規格の雷サージ発生部です。
弊社ではLSS-F03シリーズ(最大出力電圧:15kVタイプ)や、
新発売のLSS-FE01シリーズ(最大出力電圧:6kVタイプ)が該当します。

図1 IEC方式コンビネーション波形発生回路
一方下の図は、JEC規格の雷サージ発生部です。
弊社では現行のモデルLSS-720B2が該当します。
( )内の定数は8/20μs波形(電流サージ波形)の定数です。

図2 JEC式電圧・電流サージ波形発生回路 ( )内の定数は8/20μs波形の定数です。
波形の比較
[1.2/50μs電圧サージ波形]の比較
下の図3は出力設定電圧(≒C1への充電電圧):Vc=15kV、の場合の電圧サージ波形です。

図3 1.2/50μs電圧サージ波形
出力に供試品(EUT)が接続された場合、EUTが絶縁破壊して電流が流れない限り、IEC方式とJEC方式では波形に差異はありません。
[8/20μs電流サージ波形]の比較
下の図4は先述の電圧設定をした場合の電流波形の比較です。
実効インピーダンスの計算は(開放時ピーク電圧)/(短絡時ピーク電流)です。
IEC・・・ピーク電流:7500A、インピーダンス:2Ω
JEC・・・ピーク電流:2500A、インピーダンス:6Ω

図4 短絡時の電流サージ波形
EUTが絶縁破壊して、その出力抵抗が0Ω(出力短絡)の場合、IECとJECで差異が生じます。
このようにIECの方がインピーダンスが低く、ピーク電流値はJECと比較しても3倍もの差があります。
発生部の蓄積エネルギーとEUTが消費するエネルギーについて
ここからは少しマニアックな内容です。
サージ発生回路では、充電コンデンサにエネルギーを蓄積して放出します。
充電コンデンサ Cに蓄積されるエネルギーWは、充電電圧をV=15kVとすると、次のように求めることができます。

IEC方式:W=1125 [J]
JEC電圧:W=146 [J]
JEC電流:W=315 [J]
このエネルギーがサージの根源であり、サージ発生部における効率もあるため、出力はこれ以上のエネルギーが放出されることはありません。
では、EUTにサージ電流が流れたときに、実際どれくらいのエネルギーがEUT側で消費するのかを考察してみます。
EUTが消費するエネルギーは、EUTのインピーダンスによって変わります。ここでは、EUT側のインピーダンスが絶縁破壊後に2Ωとなった場合について、消費するエネルギーを算出してみます。
IEC方式の発生回路、JEC方式の電圧・電流発生回路のそれぞれについて、負荷抵抗2Ωが接続された場合の電流波形を、図5に示します。(比較のため重ね合わせています。)
充電電圧:V=15kV

図5 2Ω負荷時のサージ波形
負荷2Ωで消費するエネルギーは、次のように求められます。

I(t):電流波形
R:負荷抵抗
図5の場合においてこれをシミュレータで計算すると、次の結果が得られます。
IEC方式回路・・・492[J]
JEC 1.2/50μs 回路・・・58[J]
JEC 8/20 μs 回路・・・136「J」
結果のように、負荷抵抗のエネルギーが最も大きいのは、IEC方式となります。
ただし、どのような条件でも、常にIEC方式の出力回路がEUTに最大のエネルギーを与え得るか?というとそうではなく、それぞれの回路でエネルギー消費が最大となる負荷があります。
IEC方式の回路では、負荷抵抗が大きいと図1におけるR1(7Ω)の方に電流が支配的に流れるようになり、負荷側で消費するエネルギーも減っていきます。逆にJECの8/20μs回路では負荷抵抗が大きい方が、消費するエネルギーが大きくなります。
(シミュレーションの結果)
- 負荷抵抗が20Ω未満の場合 ⇒ IEC方式の方が負荷抵抗の消費エネルギーは大きい
- 負荷抵抗が20Ω以上の場合 ⇒ JEC 8/20μsの方が負荷抵抗の消費エネルギーは大きい
しかし、バリスタなどのように、サージを受けたときに抵抗値がダイナミックに変化するような素子の場合は、その消費エネルギーがどの程度かを知るのは困難になります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?以上の結果をまとめると、次のようになります。
- 1.2/50 μs 電圧サージに関しては、絶縁耐圧試験とみることができます。ピーク電圧値が同じで、EUTが絶縁破壊しなければ(もしくはサージ吸収素子等が働かなければ)、IEC方式とJEC方式に差異はありません。
※絶縁破壊が生じた場合、IEC規格ではそのまま電流サージ試験に移行されます。
JEC規格では[試験中断]or[電流サージ試験を実施]となります - 1.2/50 μs 電圧サージをEUTに印加し、EUTが絶縁破壊した場合にはIEC方式であれば、8/20μs電流サージの印加とみることができます。一方JEC方式の場合には絶縁破壊により電流が流れても8/20μsの電流波形ではなく、EUTに与えるエネルギーも少ないです。このため、さらに8/20μs 電流サージ試験を行う必要が生じてきます。
- 8/20 μs 電流サージに関しては、EUTのインピーダンスが小さい(20Ω未満)場合には、IEC方式の方が試験条件としては厳しくなります。逆にEUTのインピーダンスが大きい(20Ω以上)場合には、JEC 8/20 μs 回路の方がIEC方式より大きなエネルギーを与える可能性があります。







