株式会社ノイズ研究所

技術情報 「5G」時代のイミュニティ試験 近接照射イミュニティ試験の特徴と必要

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営業部 大石 聡一
NoiseKen

いよいよ突入した「5G」時代。人々の生活やビジネスに様々な恩恵を与えてくれますが、それと同時にEMCでは様々な問題が発生する可能性がある。今後必要となる5Gに関連する近接照射イミュニティ試験について従来の試験との違いや特徴、必要性とともに試験規格の概要をご説明します。

「5G」時代の到来

近年普及が著しいスマートフォンや無線LANに加え、IoTや5Gなど、新しい通信技術やインフラの登場により、多くの電子機器が無線通信で繋がる世界が到来しました。EMCの目線では、これら無線送信機が他の電子機器に影響を及ぼすケースが増加し、電磁干渉のリスクが懸念されるようになりました。1980年代以降、EMC試験の規格化は整備が進み、電波のイミュニティ試験はIEC61000-4-3(放射イミュニティ試験)に代表されるいくつかの基本規格が存在します。IEC61000-4-3は製品規格や製品群規格で採用され、1996年欧州のCEマーク規制がきっかけとなり日本国内にも広く普及し、いまでは電子機器のイミュニティ耐性向上に欠く事の出来ない試験となっています。

近接照射イミュニティ試験規格の制定

近年はスマートフォンに代表される可搬型送信機を中心とした無線通信インフラの普及に伴い、電子機器に対し不特定多数の送信アンテナが密着するような事態が起こり得る環境となり、従来のIEC61000-4-3試験ではカバーしきれないイミュニティ耐性を確認する必要が出てきました。近接する送信機から発生する電磁界は非常に強く、また近傍界の特徴を持つことから、従来の遠方から照射する放射イミュニティ試験とは性質が異なってきます。
このような背景のもと、近接する送信機に対する電磁耐性試験法であるISO 11452-9やIEC 61000-4-39が発行されています。

近接照射イミュニティ試験規格の制定

近接電磁界での電子機器への電磁干渉

IEC61000-4-3に代表される(遠方)放射イミュニティ試験では、空間に広い電磁界の場を作り、その場を安定的に確保することで、試験の再現性を担保しています。一方、近接照射イミュニティ試験は、照射アンテナ直近に発生する強い電界がEUT(被試験器)に局所的に照射されることが最大の特徴です。放射イミュニティ試験では、アンテナ~EUT間の照射距離は3mが望ましいとされ、試験レベルは1V/m~30V/m。近接照射イミュニティ試験では、100mmの照射距離で、10V/m~300V/mと10倍の試験レベルが規定されています。(ISO 11452-9規格はアンテナへの供給電力で規定しており電界強度の規定はありませんが、実際には数百V/mの電界強度が発生しています。)この事により、実際の近接送信機に対して高い試験レベルを想定していることがわかります。実際に製品(カーナビ)に、遠方照射イミュニティ試験と近接照射イミュニティ試験を行った場合に、近接照射イミュニティ試験でのみ誤作動が確認される例もあります。

このように実際に製品に対する電磁干渉の影響が異なる為、“遠方放射”イミュニティ試験と“近接照射”イミュニティ試験は共に実施する必要性があります。以後、“近接照射”イミュニティ試験の試験規格概要を記載します。

近接電磁界での電子機器への電磁干渉

近接照射イミュニティ試験規格概要

近接照射イミュニティ試験は、主に民生・産業機器向けの国際規格IEC 61000-4-39と車載機器向けのISO 11452-9で規定されています。基本的な試験機器の構成は共通しており、変調された試験周波数を出力する信号発生器と、その信号を増幅器させる電力増幅器、増幅した信号を電波として照射するアンテナが必要とする基本構成となります。

「5G」時代のイミュニティ試験 近接照射イミュニティ試験の特徴と必要 製品イメージ画像

IEC 61000-4-39試験規格概要

この規格は送信機がEUTに近接して使用される状況におけるの放射電磁エネルギーに対する電気・電子機器の耐性試験について規定している試験規格です。試験は、ポータブル送信デバイスや固定送信デバイス、および他のモバイル送信デバイスなどに近接することで電磁妨害に曝される固定設置機器やモバイル機器を考慮しています。なお、本試験はIEC 61000-4-3等の他の規格とは異なる試験法が使用され、整合性が取れない場合もある為、個別に試験を実施する必要があります。380 MHz~ 6 GHzの周波数範囲での試験レベルは以下となります。

レベル 電界強度(V/m)
1 10
2 30
3 100
4 300
5 特別

表に示す試験レベルは、校正時の無変調信号時の振幅となり、実際の試験ではパルス変調にて実施します。また、パルス変調の変調周波数は、製品群規格に応じて対応します。

• デューティーサイクル : 50 %
• 変調周波数 : 2 Hz、 217 Hz、 1 kHz
• ON/OFF比 : 最低20 dB

試験環境は、無線通信機器への影響を及ぼすため、シールドルームや電波暗室内で行う必要があります。また、試験結果への影響を抑えるために、TEMホーンアンテナを除くすべての試験装置や試験施設の壁と天井は0.8 m以上離す必要があります。EUTは非導電性で低透磁率の支持台の上に、実際に使用される状態で配置します。卓上機器のEUTは、高さ0.8mの支持台上に配置し、床置き装置の場合は床から100mmの支持台上に配置します。

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ISO 11452-9試験規格概要

この規格は自動車に搭載される電子機器と接続されたハーネスのポータブル無線機からの強い電磁界に対する耐性を評価する試験規格です。試験は電波暗室内で行い、ポータブル無線機を模擬したアンテナより電磁界を照射(26MHz~5.85GHz)させます。周波数帯域と電力、変調、アンテナ特性を考慮して試験レベルを規定し、アンテナはVSWRは4:1より小さい物を使用します。周波数帯域と試験レベルは下表とアンテナ特性を考慮して試験レベルを規定しています。

試験は電波暗室内に試験テーブルやグラウンドプレーン、疑似電源回路網などを決められた配置にセットし、信号発生器と電力増幅器にてRF信号をアンテナに供給し、そのアンテナを供試品に近づけてイミュニティ耐性の評価を実施します。

ポータブル無線機の代表的な特性(例)

送信機の指示 周波数帯域(MHz) 電力(W) 標準の送信機変調 試験変調
10m 26~30 10(RMS) Telegraphy,AM,SSB,FM AM 1kHz,80%
2m 146~174 10(RMS) Telegraphy,AM,SSB,FM CW
70cm 410~470 10(RMS) Telegraphy,AM,SSB,FM CW
TETRA/
TETRAPOL
380~390
410~420
450~460
806~825
870~876
10(ピーク) GMSK.PSK,DS PM 217Hz
50%デューティサイクル
または
Ton=577 μ s,t=4600 μ s
GSM900 876~915 16(ピーク)
または
2(ピーク)
GMSK PM 217Hz
50%デューティサイクル または
Ton=577 μ s,t=4600 μ s
PDC 893~898
925~958
1429~1453
0.8(ピーク) TDMA PM 50Hz
50%デューティサイクル
PCS GSM
1800/1900
1710~1785
1850~1910
2(ピーク)
または
1(ピーク)
GMSK PM 217Hz
50%デューティサイクル または
Ton=577 μ s,t=4600 μ s
IMT-2000 1885~2025 CW-1(RMS)
PM-1(peak)
QPSK CW および PM 1600Hz
50%デューティサイクル
Bluetooth/
WLAN
2400~2500 0.5(ピーク) QPSK PM 1600Hz
50%デューティサイクル
IEEE 802.11a 5725~5850 1(ピーク) QPSK PM 1600Hz
50%デューティサイクル
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まとめ

近接照射イミュニティ試験は、従来の遠方界での放射イミュニティ試験とは性質が異なる試験となり、あわせて実施していく必要がある。
今回、近接照射イミュニティ試験の試験規格である、民生・産業機器向けのIEC 61000-4-39と、車載機器向けのISO 11452-9の試験規格概要を紹介したが、現在の市場で実施されている放射イミュニティ試験は車載機器向けのISO 11452-9試験が殆どなり、民生・産業機器向けのIEC 61000-4-39試験はまだ実施されていない。ただし、現在は様々な電子機器の近く(近傍)で無線送信機が使用されており、実際に電子機器が無線送信機からの電磁波により誤動作等の影響を及ぼす事例が多数報告されている事を考慮しても、今後は医療機器やマルチメディア機器をはじめ、様々な民生・産業機器に対してIEC 61000-4-39規格の近接照射イミュニティ試験が要求されていく事が考えられる。

《参考文献》
1)IEC 61000-4-39: 2017, Edition1.0, Part 4-39: Testing and measurement techniques – Radiated fields in close proximity – immunity test.
2)IEC 61000-4-3: 2006, Third edition, Part 4-3: Testing and measurement techniques – Radiated, radio-frequency, electromagnetic field immunity test.
3)久保崇将, “近接イミュニティ試験用薄型プレート広帯域アンテナ特性” 月刊EMC No342, 2016年10月号.
4)久保崇将, “5G・IoTで身近になる民生機器の近接EMC試験法” 月刊EMC No384, 2020年4月号.

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