株式会社ノイズ研究所

技術情報 スペクトラムアナライザを使用した雑音端子電圧測定について

株式会社ノイズ研究所
技術部 EMCシステム技術課 石原 悠司
NoiseKen

1.はじめに

雑音端子電圧測定(以下:雑端に省略)、それは擬似電源回路網(以下:LISNに省略)を用いて供試品の電源線のノイズを測定する試験であり、車載・民生等さまざまな製品で評価が必要な大変ポピュラーな試験法の一つです。

この試験はLISNから取り出したノイズを規格に準拠したEMIレシーバを用いて測定・評価を行う必要がありますが、EMIレシーバは高価な測定器のため、プリチェックとしてスペクトラムアナライザ(以下:スペアナに省略)を用いて測定される場合があります。但し、スペアナとEMIレシーバは異なる測定器のため、相関をとることは難しくプリチェックとしても運用しきれない点がありました。しかし、最近のスペアナには(EMI)オプションを追加することでIFフィルタを6dB帯域幅へ変更、及びQP・CISPR-AVE検波が可能なスペアナもあり、よりEMIレシーバに近い測定が可能となっています。
以上の背景から、改めてEMIレシーバとスペアナの測定結果を比較し、プリチェックとしての使用可否、及び注意点の確認を行いました。今回の検証で使用したスペアナはEMIオプションを追加することでQP検波が可能になる比較的安価なRIGOL社製DSA815-TGを用いて、種類の異なる供試品(家電・マルチメディア・工業用機器)を4台用意して確認を行いました。

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2.測定条件

測定方法・条件・環境は下記表1・2、図1の通りとなります。


<2-1:測定方法>
DSA815-TG :Noisken専用ソフトを用いて、表1の通り実施しました。

表1. DSA815-TG設定内容

PKQPAVE※1
検波トレースIF幅検波トレースIF幅検波トレースIF幅
スキャン測定PKMax3 dB--PKAVE(Lin)3 dB
最終測定※2PKMax6 dBMax6 dB---

※1:アベレージはスキャン測定のみ
※2:周波数絞り込み後、ゼロスパンで測定。
EMIレシーバ:DSA815-TG測定後、同一の周波数をマニュアルで実施しました。
※相対比較のため、DSA815-TG・EMIレシーバともにファクタ無しで実施。

<2-2:供試品・測定条件>
表2. 供試品・測定条件

供試品(4台)DVD Player/SW電源/掃除機
バースト試験機(Noiseken製 試験機)
測定条件
(DSA815-TG)
周波数 (3Band分割)150 k~10 MHz/10 M~20 MHz/20 M~30 MHz
サンプル数601 Point/Band
基準面垂直
測定場所シールドルーム(ノイズ研究所 テストラボ船橋)
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図1. 測定環境

3.測定結果

※限度値はVCCI ClassBの規格値を参考として使用しております。

<3-1:DVD Player>
QP :EMIレシーバとの差分、1 dB未満
AVE :EMIレシーバとの差分、2~4 dB程度

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<3-2:SW電源>
QP :EMIレシーバとの差分、3 dB未満
AVE :EMIレシーバとの差分、2 dB未満

スペクトラムアナライザを使用した雑音端子電圧測定について 製品イメージ画像
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<3-3:掃除機>
QP :EMIレシーバとの差分、2 dB未満
AVE :EMIレシーバとの差分、3 dB未満 ※3

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※3:スパン変更(10 MHz ⇒ 300 kHz)によりSweepTimeが100 ms ⇒ 10 msによる効果

<3-4:バースト試験機>
QP :EMIレシーバとの差分、1 dB未満
AVE :EMIレシーバとの差分、3 dB未満 ※3

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※3:スパン変更(10 MHz ⇒ 200 kHz)によりSweepTimeが100 ms ⇒ 10 msによる効果
※4:DSA815-TG内蔵プリアンプを使用

<アベレージ スパン変更による改善要因について>

掃除機および、バースト試験機のアベレージ結果が周波数スパン変更によりEMIレシーバとの差分が10 dB程度から3 dB程度に改善しました。
DSA815-TGのアベレージ算出方法は表1の通り、トレースアベレージ(Lin)となります。
周波数スパン10 MHzから数百kHzにすることでSweepTimeが100 msから10 msとなりサンプル数が増えたことにより、EMIレシーバとの差分が小さくなったと考えられます。
下図6はトレースアベレージ取得のイメージとなります。

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』は10 msの間隔でプロットした信号、*は100 msの間隔でプロットした信号となり
トレースアベレージ(Lin)はそれぞれの信号を平均化するため、時間軸に対してノイズの
変動が激しい場合は掃引型の測定器とEMIレシーバでは差が大きくなると考えられます。
さらに改善させるためには、SweepTimeが高速なハイスペックなスペアナや、オプション
を追加することで、EMIレシーバのように同調した周波数1ポイントの測定が可能なスペアナ等を使用することで、よりEMIレシーバに近い結果が得られると考えられます。

4.考察・見解

本実験ではEMIレシーバと比較して
・QPは差分3 dB未満であることが確認できました。
・AVEは差分2~4 dB程度であることが確認できました。
※周波数SPAN調整含む
・フロアノイズは規格値(VCCI ClassB)に対してマージンが確保できていることが確認できました。

以上の点より、本試験前のプリチェック用として使用可能と判断できます。

注意点として、アベレージ測定はノイズによって差分が大きくなる可能性があります。
そのため、ソフトによるスタート/ストップの測定だけでなく、事前にスペアナの掃引画面からノイズの変動を目視確認し、スキャン時間、スペアナ内部ATT、及びSweepTimeなどの設定を行う必要があります。ただしDSA815-TGに特化した話ではなく、EMI測定において、どの測定器を使用する場合でも上記の確認は重要であると考えております。

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